今回、ウッディ・プライド、あのお馴染みの保安官人形の修理依頼が工房に舞い込んできました。等身大仕様の立派なサイズですが、製造からもう20年以上が経っているヴィンテージものです。

長い年月愛されてきた証拠なのか、それとも虫食いに遭ってしまったのか、ボディのあちらこちらに小さな穴がポツポツと空いてしまっています。その数、なんと数十箇所。一見すると『ちょこっと縫えば直るのでは?』と思われるかもしれませんが、実はこのウッディの修復には、ぬいぐるみならではの非常にデリケートな構造的課題が隠されているんです。

【丸洗いは絶対NG。まずは『局所クレンジング』から】 「ウッディのような人形は、一般的なぬいぐるみと違って『異素材の塊』です。ソフビやプラスチックのパーツ、コットンの衣服、合皮のベルトやホルスター、金属風のバッジまで、異なる特性の素材がギュッと一つに統合されています。

ですから、お風呂に入れるように『丸洗い』することは絶対にできません。水や洗剤をジャブジャブ含ませてしまうと、革がバキバキに硬化してひび割れたり、古いチェック柄の染料が滲んで周囲に色移り(染料移行)してしまうリスクが極めて高いからです。とした後、修理に入ります。

そこでまずは、ぬいぐるみ専用に開発された特殊なクレンジング剤を使い、表面の汚れだけをパーツごとに見極めながら手作業で優しく落とす『局所洗浄(ドライ・クレンジング)』からスタートします。下地を完璧に整えてから、いよいよ本題の穴開き修理に入ります。」

【光るピンセットの技。接着芯を裏側へ滑り込ませる】 「数十箇所に及ぶ穴をただ上から縫うだけでは、生地が引っ張られて突っ張ってしまい、ウッディの綺麗なボディラインや格子模様が歪んでしまいます。 そこで、まずは空いてしまった小さな穴の一つひとつに対し、裏側から補強用のフィルム(接着芯)を挿入していきます。

【極小コテでの熱圧着と、織り目を再現する手縫い】 「接着芯が裏側で綺麗に広がったら、次はプラモデルや精密リペア用の小さなアイロンコテの出番です。ピンポイントで熱を加えて接着芯の樹脂を最適な温度で溶かし、劣化した衣服の繊維と一体化させます(熱圧着)。これで穴がこれ以上広がるのを防ぐ、強固な土台が完成します。

土台ができたら、ここからが仕上げです。ウッディのトレードマークである赤と黄色のチェック柄(格子模様)を絶対に崩さないよう、同色の補修糸を選び、細かく縫い合わせをしていきます。

周囲の糸のテンション(張力)と調和させながら、やっと一つの穴が綺麗にふさがりました。手元で見ても、どこに穴があったか分からないレベルまで馴染ませていきます。」

【職人の想い:おもちゃの歴史を次の世代へ】 「やっと一つふさがりましたが、ウッディの身体にはこれから修復する穴がまだ数十箇所も残っています。根気のいる作業ですが、一箇所ずつ丁寧に命を吹き込んでいきます。 『トイ・ストーリー』という作品そのものが『おもちゃを大切に永く愛する』ことをテーマにしているからこそ、こうして20年もの歳月を経た相棒を現代の技術で蘇らせることには、私たち職人にとっても大きな意味があります。アットデアでは、こうした職人の手仕事のデータを蓄積し、ヴィンテージぬいぐるみのサステナビリティ(持続可能性)をこれからも支え続けていきます。」




