ゴム引きコートの特徴
デアは、マッキントッシュ(MACKINTOSH)、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)、エルメス(HERMES)、グッチ(GUCCI)など、世界に名だたる高級アパレルブランドのゴム引きコートもお手入れさせていただきます。
ゴム引きコートは、1830年にスコットランドのグラスゴーで開発されたと言われています。
もともとゴム引きコートは、チャールズ・マッキントッシュとトーマス・ハンコックが開発し、特許を取得した、防水性に優れた「ゴム引きの布(マッキントッシュ・クロス)」を使って作られた雨天用の洋服(レインウェア)です。
二枚の布地を液状ゴムで接着して作られるマッキントッシュ・クロスは近年には有名ブランドにも提供されるようになり、今やエルメスやルイ・ヴィトンでもマッキントッシュ社の製造した生地を使用して商品化しているということです。
繊維を機械で織って作られる、通常のコットン布地・通常のポリエステル布地などとは違い、マッキントッシュ・クロスはゴムを素材とする製造法からとても特殊です。
もちろんその取扱い方も、普通の衣類と同じように洗うことは難しいのです。
その手入れの難易度の高さから、大多数のクリーニング店は、どのブランドのものでもゴム引きコートのクリーニングを受け付けていません。
そんなゴム引きコートを手掛けることができるのは、実際に作業をするデアの技術者が、クリーニング技術を常に磨き続けてきたからなのです。
ゴム引きコートをクリーニングできる理由とは
ゴム引きコートのクリーニングは、まず検品でしっかりとコートの状態を確かめることから始まります。
ゴム引きコートの裏の防水テープの接着状態を確認し、テープが外れかかっている箇所があれば記録しておきます。
そして襟元や首回り、袖口などの汚れのつき方、布地の傷み具合などを、細かく職人がチェックします。
そして検品で確かめたことを参考に、洗浄処理を始めます。
実は、ゴム引きコートは、マシンを使って石油溶剤で洗浄する「ドライクリーニング」はできません。
ドライクリーニングは、通常のデリケート衣料にはよく用いられるクリーニング方法です。
(※写真 ドライクリーニングマシン)
しかしゴム引きコートの場合は、コート全体をドライクリーニングの溶剤に浸すことで、裏の防水テープの接着剤が簡単に分離し、剝がれてしまいます。
ドライクリーニングは、ゴム引きコートの構造や性質には合わない方法なのです。
ゴム引きコートにダメージを与えずさっぱりと洗い上げるためには、「職人の手作業水洗い・弱い水流で洗うマシン水洗い」が最も適しています。
洗浄では、まずひどい汚れやシミ、黒ずみの部分に前処理を施します。
襟元や首回りには、汗や皮脂が酸化した汚れが付着していることが多いのです。うっすら黒ずんでいる箇所を検品で確認したら、その部分には、本洗浄の前に念入りなブラッシング処理を施していきます。
衣類にも人体にも刺激の少ない天然石鹸を使い、ブラシで濃い汚れや黒ずみをしっかりと落とします。
前処理が終了すると、全体の洗浄に移ります。
全体の洗浄は、前述のように弱水流のウォッシュマシンを使って丁寧に洗い上げます。
通常のマシン(洗濯機)は洗濯槽内部が大きく回転する仕組みとなっていて、マシン内で洋服がグルグルと回りつつ、強水流で洗っていく…というものですが、ゴム引きコートのクリーニングで同じように洗ってしまうと、コートがひどく傷んでしまいます。
デアが、ゴム引きコートの全体洗浄に使うのは、デリケートな高級衣類のために用意された専用ウォッシュマシンです。
このウォッシュマシンは、洗濯槽内部が揺りかごのように緩やかに横に動く仕組みのものです。
洗濯槽をグルグルと回転させながら洗うものではないので、強い力を衣類に与えることなく、ごく弱い水流で優しく洗っていくことができるのです。
専用ウォッシュマシンを使って全体を洗浄することで、ダメージを与えず、しっかりと汚れを除去することができます。
また、ひどく傷んでいるゴム引きコートや、防水テープが何か所も外れているゴム引きコートは、ブラッシング洗いと弱い手洗いだけでクリーニングを終えることもあります。
その後の脱水は、袋状のクリーニングネットにゴム引きコートを入れて、30秒ほどマシン脱水を行います。遠心力で水をサッと切ることができる上、ごく短時間の処理なのでダメージを与えることもありません。
防水テープがすぐ剝がれてしまうような状態のものは、脱水処理を省くこともあります。
そういった品は、水を切らずにダラダラと流れる状態のまま干して時間をかけて自然乾燥させる、という手法を採ります。このテクニックを、クリーニング職人は「ダラ干し」と呼んでいます。
このように、熟練のクリーニング職人による臨機応変で細やかな洗浄技術こそ、デアがゴム引きコートのクリーニングを手掛けられる理由です。
どんな品物でもおなじように洗浄してしまうことは、とても危険であると言えます。
ゴム引きコートの状態によって、柔軟に洗い方を使い分けていく高技術があれば、ゴム引きコートにダメージを与えずにクリーニングすることは可能なのです。
技術が試される「ゴム引きコートのリペア」
ゴム引きコートの内側の布地(マッキントッシュ・クロス)には、防水テープが接着されています。このテープは生地の縫い目から水が入って体が濡れないようにするためのものですが、とても剥離(はくり)しやすい、という難点があります。
ゴム引きコートの防水テープは、グルー(接着剤)でつけられています。何度も着用するうちにグルーが劣化して接着力が落ちてくると、多少、力が加わるだけで剥がれてしまうのです。
ゴム引きコートをきれいな状態に保つためには、こまめにメンテナンスすることをおすすめします。
ゴム引きコートの修理は、「最適のグルー(接着剤)を使うことができるかどうか」によって、仕上がりに大きく差がつきます。
デアがゴム引きコートのリペアで使うグルーは、職人がいくつものグルーを試して選び抜いたものです。
適度な粘性がありながらもすぐに乾く特殊な接着剤で、隙間なくぴったりと防水テープを貼り付けることができます。
実際の修理は、防水テープとクロス(ゴム引きコート生地)の間に、適量のグルーを慎重に塗布し、少しずつ押さえてきれいに貼り合わせていく作業です。
熟練の技術者でも、とても気を遣う細やかな職人技です。
時間を置いて完全にグルーが乾いて防水テープが密着したら、クリーニング職人によるアイロンプレスを施します。
業務用スチームアイロンの強力な蒸気を利用して、表面のシワをきれいにのばし、襟元や袖、切り返し部分なども立体的に整えていきます。
手作業のアイロンを終え、クリーニング後の最終検品で問題なくキレイに仕上がったことが確認出来たら、ゴム引きコートは大切に梱包され、お客さまの元へと発送されます。
ゴム引きコートは、素材・構造・製法すべてが、普通の衣類とは大きく異なります。メンテナンスを手掛ける職人にとっても、美しく仕上げるためには職人としての実力・技術力が試されることになる、とても難しい作業なのです。
デアのゴム引きコートクリーニングは、経験豊富な熟練の技術者だけが取り扱っています。洗い作業・修理も、はじめから最後まで一切手間暇を惜しむことなく、真心を込めて作業していきます。
マッキントッシュやルイ・ヴィトンなどの各ブランドのゴム引きコートは、クリーニングとリペアをこまめに行うことでより永く楽しむことができます。
使い込まれても、職人技の光る丁寧なメンテナンスを施され、キレイに保たれたものなら、愛着の持てる自分だけの特別な一着になるでしょう。